ランチア・テーマ8・32。
その名が示すように、8気筒、32バルブのフェラーリエンジンを搭載したサルーンという意味そのままなのだが、誰がディレクションしたのか定かではないが、とにかく「よく解ってる」お方が指揮を取ったことは間違いない。それほど、世界中のカーマニアがぐうの音を上げたクルマの一つである。
前号でも紹介したように、エグゼクティブ(死語)がキザを決めるにはまさにうってつけのクルマで、今の大都会を跋扈する「ラクジュアリーサルーン」とは異なり、大音量やアグレッシブな外観でパフォーマンスをひけらかすのではなく、ちょいとばかり控えめに楽しむ感じの大人のサルーンだった。
なにせ、ランチアらしい上品さと、ひとたびムチを入れると轟音とともに吹け上がるフェラーリユニット(クランク角を変更しているので無茶なパワー特性はない)のサウンドが楽しめる、なんともエロティックなクルマだった。
ちなみに、生前、永きに渡り「抱かれたい男」の上位の常連だった当時のフィアットグループの総帥、ジャンニ・アニエッリはこの8・32ベースのワゴンを製作し、二台体制でレジャーに出かけていたという。(写真のシルバーがそれ)
今思えば、80年代後半はその意味ではイタリアのみならず、多くのクルマがロマンに満ち溢れ、数多くの名車が生まれた時期だったともいえる。そうした経緯もあり、今の旧車ブームがあるのかもしれない。
もちろん日本もバブルの真っ只中だったので、このテーマ・フェラーリも多くの著名人がハンドルを握った。
「今のマゼラーティだってフェラーリV8じゃないか?」という方もいらっしゃるだろうが、物理的にはそうであっても「フェラーリ製V8のパーツを使ってできたクルマ」と「フェラーリのエンジンを載せたクルマ」ということではちょいとばかり重みが違う。
こんなことを言うと世のマゼラーティのファンから怒られそうだが、まず、現行のマゼラーティのエンジンのどこにもFerrariの文字はない。
そもそも往年のライバル同士だったが、今やフェラーリ傘下のマゼラーティは政治的な意味でも、物理的にもただ一部のコンポーネンツを流用しているという言い方が本当のところだったりする。
その点では、ランチアもフェラーリも当時はフィアット傘下だったために、「同じ系列の会社のパーツを使いまわしている」という言い方もできなくはない。
誤解のないようにしていただきたいのは、決して現行マゼラーティをディスっているわけではない。これから説明する過去のクルマ、テーマ8・32の成り立ちを語る上での参考としているということをご了承いただきたい。
では何がこのテーマ8・32を「特別なクルマ」にしていたのだろうか?
続きは次号で!
A prestissimo!!